【ご報告】英国で「ジェイミーのコンサート」学術調査研究の結果が発表されました

去る6月12日(月)、ロンドンのギルドホール音楽院にて、「ジェイミーのコンサート」の学術調査研究の結果が発表されました。
同音楽院からの研究助成によって実現したこの学術調査は、ピアニストで「ジェイミーのコンサート」発案者/主宰者の小川典子と、同音楽院のミリアム・ジェームス博士(Dr Mirjam James)が協力して行ったものです。

2004年に日本で誕生した「ジェイミーのコンサート」は、英国では2010年にスタートしました。小川の英国自閉症協会(The National Autistic Society)文化大使就任(2015年)をきっかけに、日本はもとより英国でもいっそう存在感を増した「ジェイミーのコンサート」ですが、その特徴や成果の学術的な調査が試みられたのは今回が初めてです。

小川とジェームス博士は、日本と英国で「ジェイミーのコンサート」来場者へのアンケート調査を重ね、データを集計・分析。さらに数名の有志の方々にもインタビューし、回答を分析しました。
このたびの発表会では、調査から浮かび上がった「ジェイミーのコンサート」の独自性や成果が、明るい展望とともに語られました。

ここでは、ジェームス博士が結果発表の内容をもとに作成した詳細な学術レポート(英語/合計17ページ)の要点をご紹介いたします。

なお、「ジェイミーのコンサート」については以下もご参照ください。
ご挨拶:ジェイミーのコンサートに寄せて ─ 小川典子
ジェイミーのコンサート紹介動画
 


 
【1. 調査概要】

<主な目的>
(1) 「ジェイミーのコンサート」来場者の属性や“生の声”等を把握すること。
(2) (1)の分析を通して、「ジェイミーのコンサート」がもつ音楽的・社会的・感情的な効果について考察すること。
(3) 「ジェイミーのコンサート」の演奏会と茶話会が来場者にもたらす「治癒的なtherapeutic」影響について考察すること。

<期間>
2015~2016年

<対象>
・アンケート対象者:日本と英国で行われた「ジェイミーのコンサート」への来場者(221枚の記入式アンケートを回収。)
・インタビュー対象者:アンケート回答者のうち、インタビューをご快諾くださった3名の方々。
 

【2. 分析】

<来場者属性>
・性別
日本(81%)・英国(76%)とも女性の比率が圧倒的に高い。

・年齢
日本では46~55歳が群を抜いて多く、英国では36~45歳に次いで46~55歳が多数を占めている。

・自閉症児者との関わり
2か国全体で57.34%が自閉症児者の直接の介護者であると回答。
英国ではその比率が68%と高く、日本の来場者がより多様なバックグラウンドをもつことが明らかになった(他の障がいをもつ方々の介護者、自閉症児者の親族やその友人、一般の音楽愛好者など。)

<来場者によるコンサートの評価>
・平日の開催
70.6%が「来場しやすい」と回答。

・昼間の開催
69.5%が「来場しやすい」と回答。

・満足度
「5:非常に満足」から「1:全く満足していない」の5段階評価で回答、2か国全体での平均満足度は4.9。
80%が「また来場したい」と回答。

<過去・現在のコンサートの経験>
自閉症児者の介護者の大多数が、介護者になって以降、通常のクラシック・コンサートに行く機会が激減したと回答。
全体では54%が、自閉症児者の介護者を対象とするコンサートに初来場と回答。
(とりわけ英国では80%が、自閉症児者の介護者を対象とするコンサートに初来場と回答。)

<認知経路>
2か国全体では、「ジェイミーのコンサート」来場のきっかけとして、「口コミ」(27%)が目立った。
(多くの方々が、「次回は家族や知人を誘って来場したい」とも回答。)
英国では、来場者のほぼ半数(47%)が英国自閉症協会による告知をきっかけに「ジェイミーのコンサート」を認知。

<演奏会後の茶話会について>
19%のみが「知人以外とは会話をしなかった」と回答。茶話会が新たな出会いの機会ともなっていることが明らかになった。

*このほかアンケートでは、プログラム、小川の演奏と曲間でのトーク、茶話会、イベント全体等への感想を自由にお書きいただき、インタビューでも具体的な感想やご意見等を伺いました

 
【3. 考察~「ジェイミーのコンサート」の独自性と今後の展望】

<「ジェイミーのコンサート」の設定>
・介護のスケジュールゆえに、平日夜/土日に開かれる通常のクラシック・コンサートを訪れることが難しい来場者たちは、平日の昼間に開かれる「ジェイミーのコンサート」を歓迎していることが分かった。

・自閉症児者を対象とした催しはこれまでにも存在したが、その両親や介護者を対象としたコンサートは前例がなく、画期的であることが分かった。

<来場者が感じる「ジェイミーのコンサート」の独自性>
・「ジェイミーのコンサート」は、自閉症児者の介護者自身が「尊ばれている」と感じることのできる稀な催しであることが浮かび上がった。
⇒ 来場者からは、「感謝」に関するコメントが多々寄せられた。

・「ジェイミーのコンサート」は専門家によるセラピー(治療therapy)ではないが、小川による質の高い演奏、つまり音楽そのものが、来場者に「治癒的なtherapeutic」効果をもたらしている。
⇒ 来場者からは、「感情」「感動」に関するコメントが多々寄せられた。
⇒ 多くの回答者が、イベント中に流した涙が悲しみの感情ではなく喜びの感情に起因しているとコメント。
⇒ 聴取への集中や、音楽から与えられる感動は、来場者が日々の介護に対して抱いている不安や心配といったネガティヴな感情を軽減させ、あるいは一時的に忘れさせる。

・「ノリコ効果」
⇒ かつてジェイミーとその家族と共に暮らした小川が、自分自身の体験や「ジェイミーのコンサート」の主旨を語ることによって、来場者は自閉症児者の介護者に対する小川の個人的な関心・共感・理解を受けとめ、ぬくもりを感じる。これは感情のこもったコミュニケーションを取ることが難しい自閉症児者と日々向き合っている介護者にとって、非日常的で心動かされる体験である。
⇒ さらに小川による一流の演奏が、来場者の満足度を高めている。
⇒ 小川は、適切なプログラミングと、曲間のトークによって、来場者とクラシック音楽の橋渡し役ともなっている。これによって来場者は、音楽ないしコンサートに親近感を抱くことになる。

・来場者にとって演奏後の茶話会は、社交の場であると共に、安らぎを得る場ともなっている。
 

<「ジェイミーのコンサート」がもつ可能性~今後の展望>
・「ジェイミーのコンサート」の開催やその宣伝は、一般の人々が自閉症について知り、理解を深める機会にもなる。
⇒ 実際、長年開催されてきた日本では、英国に比べて、一般の音楽愛好者等、より多様な聴衆の来場が観察できた。

・「ジェイミーのコンサート」は、クラシック音楽にとって新たな聴衆を開拓する機会にもなる。
⇒ 「通常のクラシック・コンサートに通うことができない」という自閉症児者の介護者の悩みは、他の障がいをもつ人々と暮らすご家族や、高齢者の介護者、子育て世代の悩みとも共通する。平日の昼間に1時間(休憩なし)開かれ、プログラミングの工夫やトークによって親しみやすさも感じられる「ジェイミーのコンサート」には、従来のクラシック・コンサートに足を運ぶことができない「新たな聴衆」の来場が期待できる。
⇒ 今回の調査では、80%が「もう一度来たい」と回答。また「ジェイミーのコンサート」が自身の初めてのクラシック・コンサート体験だと回答した方々もいた。

・「ジェイミーのコンサート」の周知
⇒ 多数が「次回は家族や知人を誘って来場したい」と回答。「口コミ」によるさらなる来場者数の増加が見込まれる。
⇒ 多数の回答者が、「ジェイミーのコンサート」の来場者数増加と自閉症の啓発を望み、一般メディア(新聞やラジオ)等を通じたいっそうの広報宣伝活動を提案。

 


 
このたびの調査研究に快くご協力くださった全ての方々に、改めて篤く御礼を申し上げます。

  

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